詩の本の思潮社

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新刊情報

現代詩文庫『有働薫詩集』

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永遠の切片をもとめて


落ちていた埃を
手のひらに拾うと
鼠のかたちの影になった

夕闇の部屋で

このあたりでは
ついぞ見かけなくなった
害獣を
殺すことにも慣れたと言っていた

首都の谷間に住む妹の
息子に子は生れただろうか
(「まぼろし」)


その詩句は、彼女の熱愛するモーツァルトの楽曲のように軽やかで透明なひびきをもってぼくの耳朶を快く打つ。ぼくはしばし眼で、この詩女神がかなでる曲に身を浸す、あたかも音楽家が楽譜の上に未だ音を発せざる曲を聴くかのように。「眼で読む音楽」というものがあるとすれば、それは彼女の詩であろう。――沓掛良彦

感性と知性が響きあい、レアルとヴィジョンがせめぎあう。個から共苦の深みへ、〈事後の詩人〉の一途なる軌跡。現代詩花椿賞受賞『幻影の足』全篇をふくむ一巻選集。
解説=鈴木志郎康、阿部日奈子、中本道代、野村喜和夫、竹内敏喜

1650円(税込)
四六判並製・160頁
ISBN978-4-7837-1029-5
2024年3月刊

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たかとう匡子『ねじれた空を背負って』

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不条理のただなかで


いつもの風景は無限に遠く
いまはもう立ちすくむしかない
消去法など
ここにはない
追いかけてくるぎざぎざぎざの轟音よ
(「荒浜にて」)


あふれる水、なだれる空、得体のしれない風……耳目を軋ませる不穏な気配。揺らぎ傾いでいく時代の懸崖で、記憶といまを重ねる声は、なおも闊達な響きを失わない。4年ぶり、待望の新詩集。装幀=井原靖章、切り絵=井原由美子

2750円(税込)
A5判変型上製・128頁
ISBN978-4-7837-4559-4
2024年3月刊

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野村喜和夫『パッサル、パッサル』

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新詩集


おめでとう
パンデミックのさなか
でさえも
時は静かに発酵し
すっかり人気のなくなった
午後の公園の
滑り台やジャングルジムに
どこからかゆらゆらと
水子たちが集まってきて
まつわりつき始める
(「世界以前」)


2012年以降、10年強のあいだに書かれた、連作詩篇と長篇詩を除く作品を収録。その時その場所でオケージョナルに書き継がれた多彩な詩群はまさに「パッサル」(マレー語で「市場」)の語にふさわしい。自身の詩作に忠実に精力的に向き合う、大岡信賞受賞詩人による新詩集。装幀=鈴木一誌、吉見友希

3960円(税込)
A5判上製・208頁
ISBN978-4-7837-4560-0
2024年3月刊

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安智史『萩原朔太郎と詩的言語の近代――江戸川乱歩、丸山薫、中原中也、四季派、民衆詩派など』

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16年ぶりの評論集


本書は、「萩原朔太郎」のテクストを主軸もしくは隠れた軸線として浮かび上がる、近代日本の詩人・文学者たちの問題を追ったものである。
(「あとがき」)


「テクストの韻律に精妙に耳を澄まし、詩史の文脈に分け入り、近代日本の「マイナー文学」の最高の実践者・萩原朔太郎の創造の秘蹟を、安智史は鮮やかに浮かび上がらせる」(松浦寿輝)。江戸川乱歩や稲垣足穂、丸山薫・中原中也・吉本隆明と四季派、白鳥省吾ら民衆詩派vs北原白秋……。党派を超えた詩人・文学者たちと萩原朔太郎の交差する地点を明らかにする画期的労作。『萩原朔太郎というメディア ひき裂かれる近代/詩人』につづく16年ぶりの評論集。装幀=中島浩

5940円(税込)
四六判上製・568頁
ISBN978-4-7837-3832-9
2024年3月刊

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現代詩文庫『村田正夫詩集』

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平和はまだ訪れていない


世はまさに風神雷神である
封紙頼信紙である
忠臣楠氏である
中止乃至死である
精子卵子である
喰う詩
空詩
空襲である
サイレンである
ヒロシマナガサキである
ナガサキアゲハである
アフリカオナガヤママユである
スワヒリ語である
ジャンボーである
風スル馬牛である
風刺である
(「バラ色の人生」)


このドラスティックな改革をまともに受けた村田正夫は、戦後のあらあらしい現実を生きる青年として、するどい感性と判断力で、諷刺詩という武器をつかって、自分の正しい位置をとらえつづけた。村田正夫は、若い詩人たちの面倒をみながら、一生、その視座をつらぬいた。――三木卓

自ら詩誌「潮流詩派」を組織し、出版も手がけた詩人による24冊の詩集から抄録。諧謔、皮肉、ユーモア……いまなお色褪せぬ風刺の力により現代を鋭く射貫く。
解説=八木忠栄、福島泰樹、岡和田晃

1650円(税込)
四六判並製・160頁
ISBN978-4-7837-1028-8
2024年1月刊

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現代詩文庫『藤田晴央詩集』

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雪国がはぐくむ清冽な抒情


今 たましいは
この無数に降りしきる雪にのって
舞い降りているのだろう

まるで湧きでるようね
降りしきる雪を見あげながら
おまえはよくそう言った
今 おまえのたましいも

湧きでている
泉のように
わたしに向かって
子どもらに向かって
(「空の泉」)


優しげな表情に油断してはならない。藤田晴央の詩にはおそろしく深い淵がある。とはいえその詩はだれかを驚かせようとしているのではない。幸せになろうとしているのだ。その詩はなにかを教えようとしているのではない。教わろうとしているのだ。その詩は生きようとしているのだ。――池井昌樹

個から普遍へ、普遍から個へ。『夕顔』(三好達治賞)『空の泉』全篇はじめ、初期詩集から最新詩集までを抄録。清水昶との80年代の対話「文学の「達成」とは?」収録。
解説=新川和江、中上哲夫、伊藤芳博、久保隆

1650円(税込)
四六判並製・160頁
ISBN978-4-7837-1027-1
2024年1月刊

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高橋順子『泣魚句集』

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俳句集成


 還暦の少年に寄す土用浪

 しらうをのよごれのなきをかなしめり


「ここに一生分とはいっても、わずかばかり、つまらないものですが、と差し出す次第です」(あとがき)。
「海鳴1988-1998」「藪椿1999-2008」「飆風2009-2022」――亡夫車谷長吉との20年にわたる二人句会から生まれた句作を含む、精選237句。装幀=清岡秀哉

2420円(税込)
四六判変型上製・136頁
ISBN978-4-7837-4555-6
2023年12月刊

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山田兼士『谷川俊太郎全《詩集》を読む』

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谷川世界を周遊する


ここでは詩もまた消え去っていいという。その虚空に世界は相変わらず在り続け、「空白」が「余白」を満たす。
(『虚空へ』)


清新な抒情、言語実験、作詞、ことばあそび、――第1詩集『二十億光年の孤独』から21世紀の現在にいたるまで、あらゆるかたちで詩の未来を切り拓いてきた詩人、谷川俊太郎。その詩を長年にわたって追いかけてきた著者が、60冊を越える詩集を総覧し、谷川詩学のゆくえを辿る。読むことの楽しみに満ちた、ライフワークの結実。装幀=山田聖士

2420円(税込)
四六判並製・208頁
ISBN978-4-7837-3831-2
2023年12月刊

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オリオン瞬平『ぼくは歩いていた』

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第1詩集


ぼくは歩いていた
ただ漫然と、もしかして無意味に時を食らうように
(「照らされて」)


心を探検して、観察ノートを記す。 観察ノートは日々上書きされる。どこで上書きを終わらせるのか。この詩集は、フットノートの終わりの宣言だ。観察という文字列表現が旅支度している。後ろポケットにこの本を入れて歩くと、誰もが心の観察ノートを書きたくなるだろう。実は、わたしも書き始めた。優しいオリオン瞬平が振り向いて笑っている。――萩原朔美

オリオンさんは、詩を書いたり読んだりしていなかった間も、その種を、日々いきていくなかで育み続けていたのだ。――川口晴美

若い日に書き始め、ブランクののちに、新しい出発を果たした詩人による第1詩集。装幀=佐々木安美、装画=佐々木古奈

2640円(税込)
A5判上製・112頁
ISBN978-4-7837-4554-9
2023年11月刊

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嘉陽安之『朝をつくる』

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第1詩集


ぼくは
誰かの朝となり
生徒や通り過ぎる人が
ぼくの朝をつくる
(「朝をつくる」)


なによりも「朝をつくる」という言葉の美しさに打たれる。朝は放っておいても来るのではなくて、ぼくが君の朝をつくり、君がぼくの朝をつくるもの、という、とても素敵な考え方に支えられている――松下育男

なにげない日常の、かけがえのない時間。第1詩集。装幀=佐々木安美、装画=佐々木古奈

2420円(税込)
四六判上製・96頁
ISBN978-4-7837-4553-2
2023年11月刊

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大島静流『蔦の城 lux poetica④』

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不穏な声に


無限に増殖して根を張る相容れない生命の陰で
諦念に引き攣ってもう明くことのない眼の端を
いつか指先で書き捨てた
不注意な呼び名の残りが漂う
(「蔦の城」)


大島静流の詩の重心がひときわさがっている。安定ということではない。重心はくだって、薄暗く、不安定で、不確かな地点から視線が始まってゆく。薄暗いビオトープのミクロコスモスから少しずつゆるやかに紡ぎだされる言葉たち、この薄曇りの世界に紡ぎだされる言葉たちは、竦みながら、しかしやがてたぐい稀でたしかな手応えをもって、孤独のうちに燦然とした世界を創りあげる――朝吹亮二

思念と現実の亀裂を幻視し、堅固に構築される詩語の城。いっそうの深みへと降りてゆく第2詩集。好評重版! 装画=来田広大、装幀=戸塚泰雄

1650円(税込)
四六判並製
ISBN978-4-7837-4564-8
2023年11月第1刷 2023年12月第2刷

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張文經『そらまでのすべての名前 lux poetica③』

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わたしのはじまりへ


あめが降らない冬の日は
いつでもかわりに
見えない 名前がふりそそぐ
(「ふらない日にも」)


生きていることに理由のわからない喪失感を抱き、溶けていなくなることを甘やかに望みながら、青空に失意とも安堵ともつかないすうっとしたものを感じた経験が、もしあなたにもあるなら。その時のあなたのために、この詩集に出会ってください。「空」は、その漢字の意味をいくつも重ねた、張さんの独特の詩語です。ことば以前のことば、わたし以前のわたし。そのまどろみへの憧れと、背いて書くしかない孤独が、頷きかけてくるような詩集です――暁方ミセイ

うまれたことの痛みとともに、言葉をしって、せかいに呼びかける。ふりそそぐ名前のなか、あふれる24の抒情。好評重版! 装画=髙木大地、装幀=戸塚泰雄

1650円(税込)
四六判並製
ISBN978-4-7837-4563-1
2023年11月第1刷 2023年12月第2刷

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小川芙由『色えらび lux poetica②』

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リズムの精彩


身体を無視して眼の奥に心を探し当ててしまうから光。そこにねこを、子音のような傷を、隠してやる。しきりに在るばかりの孤独が現象が、ぐうぜんを、見つけたときの反応、3、2、1、
(「ひみつの丘があったこと」)


この凜々しさはなんだろう。よく観察された風景と実直な行為とが織りなす、光まみれの詩群。乱反射することばのファンタジアの中に、ひとりの開け放たれたひと、すっくと佇むひとがいて、こちらをまっすぐ見つめている――大崎清夏

わたしの、だれかの生きる、色とりどりの遠景。2023年度〈ユリイカの新人〉による、あざやかな出発。好評重版! 装画=木村彩子、装幀=戸塚泰雄

1650円(税込)
四六判並製
ISBN978-4-7837-4562-4
2023年11月第1刷 2023年12月第2刷

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芦川和樹『犬、犬状のヨーグルトか机 lux poetica①』

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自在な仕草、かたち


集合、離散する、金魚と金魚鉢。雨粒だったら窓ガラスの上をいつまでも泳ぎ回るわ。馬鹿ね、あれは走っているのよ。蒟蒻(こんにゃく)はいまも蒟蒻畑で生まれている。
(「三つ葉のオセロ、日傘を持たない」)


干菓子が(言葉が?)散り散り、寄せ集められたり、寄せ集められなかったり。笑う笑わない笑う丸ゴシック体。自在に飛び回るハトたち(ハトたち?)。とげとげしい破壊にならない配慮。かたまった言葉や乱雑な言葉が多い現実にくたびれたら、新しい楽しさがたくさん舞う芦川詩集を読みましょう――小笠原鳥類

(非)生物として生きる文字たちがちらばり、つらなって、かたまりになる。今年の現代詩手帖賞詩人の、かわいいユートピア19篇。好評重版! 装画=横山麻衣、装幀=戸塚泰雄

1650円(税込)
四六判並製
ISBN978-4-7837-4561-7
2023年11月第1刷 2023年12月第2刷

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『岡崎純全詩集』

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北陸の生を蝸牛の如く見つめ築き上げた豊穣な詩風土


ぬりのはげかけた
黒い重箱の
その底から
こんのちの
文字にならない
いびきが漏れる
(「重箱」)


もっとも根源的な福井(北陸)人を語った詩人として、長く記憶されるべき詩人であろうと私には思えてならない。――倉橋健一

岡崎純が生地の民衆の記憶や伝承、世間話、俚諺を背景に、歌い語りの詩法を手堅く手中におさめた時、土地の口承は寓話性を帯びてくる。――金田久璋

岡崎純の詩の世界は娑婆苦に耐えて懸命に生きる人間の魂を慰藉し、深い安堵感をもたらしてくれる。得難い詩である。――広部英一

北陸の農村でくりかえされる寡黙な生と死に寄り添い、その習俗や自然を根に、滋味に溢れた独自の詩風土を築き上げた岡崎純。『重箱』から『寂光』にいたる単行詩集6冊と生前構想の未刊行詩集、単行詩集未収録詩篇361篇を収録。詳細な年譜と解題を付し、その全詩業を一望する。装画=安井美紀子
解説=倉橋健一、定道明、広部英一、笹本淙太郎、金田久璋/年譜・解題=安井杏子編

11000円(税込)
A5判上製函入・672頁
ISBN978-4-7837-2387-5
2023年11月刊

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