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海外詩文庫『ペソア詩集』新装重版出来!

2024年07月10日

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ポエジーが複数性として立ち上がる

詩人はふりをするものだ
そのふりは完璧すぎて
ほんとうに感じている
苦痛のふりまでしてしまう

書かれたものを読むひとが
読まれた苦痛のなかに感じるのは
詩人のふたつの苦痛ではなく
自分たちの感じない苦痛にすぎない

こんなふうに 軌道のうえを
理性を楽しませるためにまわっている
そのちいさなぜんまいの列車
それが心と呼ばれる
(「自己心理記述」)


「フェルナンド・ペソアFernando Pessoaの名前は、ストラヴィンスキー、ピカソ、ジョイス、ブラック、フレーブニコフ、ル・コルビュジエといった1880年代生まれの偉大な世界的芸術家たちのリストのなかに入れられるべきだ。彼らの特徴がすべてこのポルトガルの詩人に凝縮されて見出される」とロマン・ヤコブソンは述べた。ペソアという名の劇場に、アルベルト・カエイロ、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンポスといった異名者たちが仮面をつけて登場する。かくして、デカルト以降の自我の神話は解体される。マラルメが無名性として、ランボーが他者として現出させたポエジーが、ペソアによって複数性として立ち上がる。「私は誰でもあり、誰でもない。私はすべてであり、無だ」。プラトンはミメシスの徒である詩人を国家から追放したが、ペソアはミメシスを称揚する。ミメシスという身振りを共振によって共有すること、それこそがペソアを読むという希有な体験だ。本書では、複数詩人ペソアの主要な異名者3人と本人名義の代表作を収録した。

編訳者=澤田直(さわだ・なお)
1959年生まれ。立教大学文学部教授。著書に『フェルナンド・ぺソア伝 異名者たちの迷路』『サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論』『〈呼びかけ〉の経験』、編著に『異貌のパリ1919-1939 シュルレアリスム、黒人芸術、大衆文化』『はじまりのバタイユ』など。訳書にぺソア『新編 不穏の書、断章』、フォレスト『さりながら』など多数。

1980円(税込)
四六判並製・160頁
ISBN978-4-7837-2515-2
2008年7月初版第1刷 2024年8月改版第2刷

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海外詩文庫『ウィリアムズ詩集』新装重版出来!

2024年07月09日

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事物を離れて観念はない

思わず
見とれる

赤い車輪の
手押し車

雨水でツヤツヤ
光っている

そばには白い
鶏たち
(「赤い手押し車」)


「詩は、コトバで作られた小さな(あるいは大きな)機械だ。そこには感傷的なものもなければ、余分なものもない」と言い切るウィリアム・カーロス・ウィリアムズWilliam Carlos Williams は、コトバの象徴性から詩を解放しようとした20世紀のアメリカを代表する詩人である。「事物を離れて観念はない」という彼のモットーは、20世紀後半のアメリカ詩を特徴づけるものとなった。産科と小児科医を生業とした多文化主義の詩人は、「反−詩」的な「ここ、いま」の現実から離れることなく詩を創造していった。アメリカ口語の持つ詩的可能性を追究し、ホイットマンが夢みた「アメリカのうた」を歌い続けたが、その実験的な詩のフォームは現代芸術の動向と無縁のものではなかった。ウィリアムズの「詩とは何か」という問いは、ブラックマウンテン派やビート派といったポストモダンの世代に引き継がれ、現在のわたしたちに至る。本書では、初期の名作「赤い手押し車」や、長篇詩『パターソン』から「図書館」を抄録、晩年の傑作「砂漠の音楽」を含む、ウィリアムズの代表作を収録した。

編訳者=原成吉(はら・しげよし)
1953年生まれ。獨協大学名誉教授。著書に『アメリカ現代詩入門――エズラ・パウンドからボブ・ディランまで』など。訳書に『チャールズ・オルスン詩集』(共訳)、ゲーリー・スナイダー詩集『リップラップと寒山詩』、『奥の国』、『絶頂の危うさ』、『終わりなき山河』(共訳)、エッセイ集『野性の実践』(共訳)など。

1980円(税込)
四六判並製・160頁
ISBN978-4-7837-2514-5
2005年7月第1刷 2024年8月第2刷

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