詩の本の思潮社

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新刊情報

梅原賢一郎『肉彩』

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身体の万華鏡


瀕死のわたしは
いつのまにかぬめりのなかで蛇と交合する
絡まり解かれ
わたしは生まれかわる
(「死の時――老病死」)

肉彩によって、肉体は「皮肉骨髄」生き生きとこの上なく可感的なものになる――まっさらな身体感覚を取り戻すために。32篇の詩とともに高らかに謳いあげる、肉彩主義宣言。芸術や宗教について身体を軸に新しい視座から思索する美学者の、鮮烈な第1詩集。装画=著者

本体2,400円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3288-4
2012年4月刊

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金春洙詩集/姜尚求訳『鏡の中の天使』

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悔恨と愛を映して


新たに私のまえに目と鼻を備えた
芙蓉の花となってほのぼのと咲くときまで、

一日があまりに長すぎる。
(「大峙洞の夏」)

リルケに耽溺した若き日の清冽なリリシズムから、「無意味詩」によって韓国現代詩に新たな境地を切り開いた詩人が、晩年に亡き妻に捧げた、みずみずしい愛情あふれるレクイエム。

本体2,400円+税
A5判上製・160頁
ISBN978-4-7837-2443-8
2012年4月刊

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ジェミア&J・M・G・ル・クレジオ/村野美優訳『雲の人びと』

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もうひとつの起源への旅


これほど孤独を感じる場所はかつてほかのどこにもなかった。……砂漠の人の眼差しだけが、微妙な差異を読み取り、細部に気づき、束の間の影と、反射光と、風のそよぎを察知できる。(「トゥベイラ、「岩」」)

「純粋な雲が、放射性の雲によって、あるいは情報資本主義のクラウドによって置き換えられてしまうことに最後まで抵抗しようとするこの作家は、いまも、そしておそらくは最後まで、雲の信者であることをやめようとはしないだろう」(今福龍太)。ノーベル文学賞作家、ル・クレジオが妻ジェミアとともに妻の祖先が眠る砂漠へと旅立つ。それは人類の起源をめぐる旅でもある。美しい写真とともに織りなされる詩的紀行文、待望の邦訳刊行! 今福龍太氏による書き下ろしエッセイ「雲の信者」収録。

本体1,800円+税
四六判上製・160頁
ISBN978-4-7837-2759-0
2012年3月刊



 

颯木あやこ『うす青い器は傾く』

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砕け散り、あふれだす音


時々すてきな赤い眼の白兎がやってくる
重い扉を少し開けて
(――一瞬細い隙間から足元に届く ああ光! 風!)
(「痕」)

「この、言葉となったイマジネーションのリアルこそが、唯一「自分」を支えるものなのだ。一瞬の細い隙間でも、まだ外の光と繋がっている、と信じられるぎりぎりのリアル、が震える」(北爪満喜・栞)。外界の光を求めながら、少女は一瞬の眩さに傷つく。痛み、死者、贖罪が入りこんだ器はひび割れ、砕け散り、あふれだす音――。装画=森脇環帆

著者の言葉
「あたまの後ろが痛いの/きっと三日月が刺さっている」。立ち現れる様々なイメージを通して、生きることの痛みや輝きをうたいました。Ⅰ章は‘少女’をキーワードに、死への憧憬を抱きつつ、きわどく生に留まる‘わたし’の姿を、光や太陽への嫌悪・棺フリークといった言葉に昇華しつつ、憂鬱感をベースにしながらも春の仄明るさに包まれた詩篇を収めました。Ⅱ章は失った恋(人)の影としての夜のイメージ、魚、至聖所のある塔、サラダなど色々なものに想いを託した詩篇。Ⅲ章ではさらに内面の深みに降りて、「ゆるされないほどうすくて青くそして冷たい」器であるところの自己に出会います。外界でも太陽が死に、どこまでも白い雪景色の庭に立ち尽くし、ついに青空までもが――最後に描かれる行為と情景が絶望か希望か、あるいはその両方かという問いは開かれたままです。ぎりぎりの地平で言葉を希求した、困難な時代に生を受けとめるための試みの一冊として心にとめていただければ幸いです。

本体2,200円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3286-0
2012年4月刊

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草野早苗『キルギスの帽子』

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何処へ


帽子を被って家のドアを開けると
地平線まで草原は広がり
羊の群れが近づいて来た
(「キルギスの帽子」)

「いつの間にか、読者のかたわらには一匹の羊が寄り添っていることに気付くだろう。これこそ読者一人一人が抱え持つ「存在の哀しみ」なのではないか。草野早苗はついにその柔らかなからだに触れてしまったのだ」(八木幹夫・栞)。失ったものと、得たものと――欧州での日々、そして帰国。終わらない旅を続ける魂が写すモノクローム31篇。装画=茸地寒

著者の言葉
 絵を描く人が色を意識し、写真を撮る人が光の角度を見るように、私は言葉に神経を向ける。口下手な少女だった。自分の発する言葉が理解してもらえても思いがうまく伝わらないもどかしさのなかで、薄い貝殻のなかに閉じこもってそこから外を見ていた。書くときだけ素直に現れる真実と信実。美しい詩という形を発見した喜び。書くという行為が生きることに光を与えた。神の計らいか、おとなになって旅が始まった。北の首都アムステルダムに住んでいたことがある。時間を見つけては修道院の給食所で野菜を刻んでいた。そこからいろいろな国に旅をした。ギリシャの古いオリーブの木。イギリスの黙々と生きる羊の群れ。ガラス窓のないアフリカの村。出会った人々。情景と出会いと思いを、詩という形で書きとめておきたかった。自分の魂がその時間そこで生きていたから。帰国後も旅は続く。仕事で訪れるインドの町。トーキョーのオフィス。自宅のキッチン。波のように押し寄せ繰り返すあらゆる情景が、旅の途中。そんななかで、自分の魂に触れる言葉を探し続ける。生きている限り、終わることなく。

本体2,400円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3287-7
2012年3月刊

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