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颯木あやこ『うす青い器は傾く』

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砕け散り、あふれだす音


時々すてきな赤い眼の白兎がやってくる
重い扉を少し開けて
(――一瞬細い隙間から足元に届く ああ光! 風!)
(「痕」)

「この、言葉となったイマジネーションのリアルこそが、唯一「自分」を支えるものなのだ。一瞬の細い隙間でも、まだ外の光と繋がっている、と信じられるぎりぎりのリアル、が震える」(北爪満喜・栞)。外界の光を求めながら、少女は一瞬の眩さに傷つく。痛み、死者、贖罪が入りこんだ器はひび割れ、砕け散り、あふれだす音――。装画=森脇環帆

著者の言葉
「あたまの後ろが痛いの/きっと三日月が刺さっている」。立ち現れる様々なイメージを通して、生きることの痛みや輝きをうたいました。Ⅰ章は‘少女’をキーワードに、死への憧憬を抱きつつ、きわどく生に留まる‘わたし’の姿を、光や太陽への嫌悪・棺フリークといった言葉に昇華しつつ、憂鬱感をベースにしながらも春の仄明るさに包まれた詩篇を収めました。Ⅱ章は失った恋(人)の影としての夜のイメージ、魚、至聖所のある塔、サラダなど色々なものに想いを託した詩篇。Ⅲ章ではさらに内面の深みに降りて、「ゆるされないほどうすくて青くそして冷たい」器であるところの自己に出会います。外界でも太陽が死に、どこまでも白い雪景色の庭に立ち尽くし、ついに青空までもが――最後に描かれる行為と情景が絶望か希望か、あるいはその両方かという問いは開かれたままです。ぎりぎりの地平で言葉を希求した、困難な時代に生を受けとめるための試みの一冊として心にとめていただければ幸いです。

本体2,200円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3286-0
2012年4月刊

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