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草野早苗『キルギスの帽子』

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何処へ


帽子を被って家のドアを開けると
地平線まで草原は広がり
羊の群れが近づいて来た
(「キルギスの帽子」)

「いつの間にか、読者のかたわらには一匹の羊が寄り添っていることに気付くだろう。これこそ読者一人一人が抱え持つ「存在の哀しみ」なのではないか。草野早苗はついにその柔らかなからだに触れてしまったのだ」(八木幹夫・栞)。失ったものと、得たものと――欧州での日々、そして帰国。終わらない旅を続ける魂が写すモノクローム31篇。装画=茸地寒

著者の言葉
 絵を描く人が色を意識し、写真を撮る人が光の角度を見るように、私は言葉に神経を向ける。口下手な少女だった。自分の発する言葉が理解してもらえても思いがうまく伝わらないもどかしさのなかで、薄い貝殻のなかに閉じこもってそこから外を見ていた。書くときだけ素直に現れる真実と信実。美しい詩という形を発見した喜び。書くという行為が生きることに光を与えた。神の計らいか、おとなになって旅が始まった。北の首都アムステルダムに住んでいたことがある。時間を見つけては修道院の給食所で野菜を刻んでいた。そこからいろいろな国に旅をした。ギリシャの古いオリーブの木。イギリスの黙々と生きる羊の群れ。ガラス窓のないアフリカの村。出会った人々。情景と出会いと思いを、詩という形で書きとめておきたかった。自分の魂がその時間そこで生きていたから。帰国後も旅は続く。仕事で訪れるインドの町。トーキョーのオフィス。自宅のキッチン。波のように押し寄せ繰り返すあらゆる情景が、旅の途中。そんななかで、自分の魂に触れる言葉を探し続ける。生きている限り、終わることなく。

本体2,400円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3287-7
2012年3月刊

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