詩の本の思潮社

ホーム新刊情報 > 瀬崎祐『窓都市、水の在りか』
新刊情報

瀬崎祐『窓都市、水の在りか』

null


蛇・境界・エロス


濃い水のなかにはなにかが隠れている 我が身を透かして見せないために あなたの顔を映している あなたの顔が映った水鏡の裏側には 向こうからあなたを凝視しているもう一つの顔が隠れている
(「水鏡についての断片」)

本当の嘘をつくために言葉に真向かえば、身体の奥から暗く湿った水の気配が応える。言葉は捩れる肉体から出発し、水跳ねに足を濡らしながら螺旋状に還っていく――。写真=高吉麟太郎。


著者の言葉

 やっとの思いで書きたいことを描いた作品、を集めて、この詩集を出すことができた。
 詩に描きたいことがあって詩を書く、それはとても自然なことだ。目標が自分でもはっきりと見定められている。そうではなくて、なにかを描きたいわけではないのにとにかく詩を書きたくなるときがある。とにかく詩を書きたい衝動。
 このときはいささか話がややこしくなる。なにを描けばよいのか、自分でもわからない。描きたい衝動そのものを書く、とは異なるし、描きたい衝動についての説明を書く、とも異なる。描く対象のようなものを仮初めにでも自分の中に創りあげ、とにかくそれについて描くふりをする。衝動が探しあてた対象。しかし、描いているのは実はその対象ではない。もっと未分化な時点で書いている。実際にはこれはかなり辛いことでもある。
 そんなとき、おそらく私は自分の内側にある何かを解き放ちたい欲望にかられて、仮初めの対象についての言葉を発しているのだろう。その時点では言葉が道具であるように、対象もまた道具であるだろう。そうして表現されたものが目指すものは、個人的なことがらから可能な限り遠くに離れたところにある。
 そのようにして書かれた私の作品が、読む人にとっても何かを解放する道具になればいいのだがと思う。私の発した言葉が、そんなことをおこなう力のあるものになっていればいいのだがと思う。

本体2,200円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3272-3
2012年1月刊

本のご購入はこちらから