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北原千代『繭の家』

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ひかりをはなつ


招かれて
籐かごをゆらして
ナンキンハゼのまるい実がこぼれ
降りつもった紅葉の
砕かれて鳴る小径を
(「入り口はこちら」より)

「この詩集の22篇の詩は、北原さんの内なるみずうみから汲み上げられた、豊かで奥深い水の声からなっている。いのちの神秘を語る彼女の美しくも妖しい声に魅せられて、私はいつの間にかその昏い水辺に導かれている」(新井豊美)。繭のなかから零れるように、光をはなつもの、触れられそうで触れられない、その中心に、しずかに近づいてゆく。


【著者の言葉】

 繭の家のイメージは、どこからか不意にやってきて親しい存在となった。可塑性があり、体温と湿りを有している。人が生きている間まとう肉体、あるいは地上で住まう家の象徴のようでもある。
 人体の六割以上は水分だそうだ。誰もが水をゆらしながら、ちいさな眠りとめざめを繰り返し、地上の時を歩いているのだろう。水平方向だけでなく、天を仰ぐときに心身が意識する垂直の動きを尊び、描いてみたいと思った。
 言葉そのものがもつ美しい想念に憧れながら、わたしが両手に受けたのは、水を帯びた声、まだ誰にも話されたことのないものがたりだった。岸辺や沼地、土塚、朽葉の重なりのようなところに手を差し入れ、こぼれおちた声をひろいあつめた。思いがけず美はすぐそばに育ち、ささやかなものにも光は射していた。
 この第三詩集は、尊敬する詩人、遠くや近くからたいせつに見守って下さる方々に支えられ、ようやく生まれた。わたしはこのことをずっと忘れないだろう。

本体2,400円+税
A5判上製・96頁
ISBN978-4-7837-3263-1
2011年9月刊

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