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牧田久未『林檎の記憶』

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ご契約なさいますか?

ただし鍵はマスターキー一本だけ
スペアは不可
ただ一つの約束を守れなかったら
着の身着のままもう二度と戻れないんです

ご契約なさいますか?
(「ご契約なさいますか」より)


「牧田久未は現実の亀裂に蜃気楼を見てしまう人らしい。……平明で謎にあふれる詩篇。がぶり齧っていくと信管のような種子にカチッとあたる。リンゴは人類の罪と罰を記憶している愉快な爆弾なのだ。」(八木幹夫)。楽園追放の謎を日常の視点で探してみよう。思考の飛沫は時にユーモラスに、時に心の奥処からつぶやくように。奔放な言葉の粒の宝箱。装幀=著者


【著者の言葉】

その実はどんな味なのだろう。禁じられた木の実はそれ自体問いだ。それは毎日毎日問い続ける。なぜ禁じられているのだろう、食べるとなぜ死ぬのだろう、死ぬとは何だろう、生きるとは……。一つの問いは無数に増殖して唯一つの手がかりに向かう。その実につまっているはずの答え。一齧り、失ったものは善き知恵、残るのは悪しき知恵の後味。後悔に泣くアダムとイヴに大天使ミカエルは追放の手を緩めない……。

こうなったら色んなリンゴを齧りに齧り、後悔のありったけをバネにして、どこかにジャンプするしかない。契約するリンゴ・証言するリンゴ・飛行するリンゴ・惑わすリンゴ・探し物するリンゴ・帽子の中のリンゴ・予言するリンゴ・預金するリンゴ・紡ぐリンゴ……。知らないけどすでに知っているもの、知っているから知らないと気づくもの、知恵のからくりは反転を繰り返しながら、罪のようにも、罰のようにも、希望のようにも、歴史を転がしていく。


本体2,400円+税
A5判上製・98頁
ISBN978-4-7837-3256-3
2011年9月刊

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