岩木誠一郎『流れる雲の速さで』

遠い風の吹き方
遠い風の吹き方
かすかにゆれる空気のなかを
漂っている光の粒が
いつのまにか別の場所へ
運んでゆくものだから
流れる雲の速さで
通り過ぎてゆく世界を
ぼんやりと見送っているばかりだ(「夜の食卓」)
心の縁に雲のかたちが残っていて、目が覚めるといつも何かを忘れてきたような気になる。それは遠い空の記憶なのだろうか。漂泊なんて大げさなものでなくても、心はいつもひとりどこかを彷徨っているのだ。しずかに暮れていく一日の果てで、しずかに紡がれていく詩の言葉がある――失われた風景のための26篇。装画=矢野静明
本体2,200円+税
四六判並製・98頁
ISBN978-4-7837-3229-7
2011年3月刊