詩の本の思潮社

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新刊情報

平鹿由希子『集真藍里』

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約30年ぶりの新詩集


でんでんこぼし でんこぼし
よめよめおきろ よめおきろ
あさなゆうなに ちゃをいれろ
あさねをするな ひるねをするな
せっちんそうじも わすれるな
(「せっちん怖い」)

平鹿さんの詩を読んでいると、実際には経験していないはずの私が語りに引き込まれて同化するように〝里〟の時間に繫がれるから、その美しさとともに夥しい傷の記憶がなまなましく目の前に広がる。埋もれていても消えてなどいない。黙るしかなかったこと、届く先のなかった声を、平鹿さんの詩は今という時間に蘇らせて繫ぎながら、寿き、呪い、鎮魂するーー川口晴美

紫陽花咲く家から駅までのいち里の道。古くから秋田の地に伝わる民話、伝承の数々。沈黙をやぶる、おんなたちの、封印された歌ごえ。装幀=中島浩

2860円(税込)
A5判変型並製・104頁
ISBN978-4-7837-3787-2
2022年4月刊

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新井啓子『さざえ尻まで』

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第24回小野十三郎賞受賞!


折れ曲がったきつい坂は
ちちははの来た径
折れ曲がった蔓草の茂る坂は
わたしの帰る径
(「クラウドボウ 虹雲の径の果て」)

これまでに読んだことのある詩がこうして一冊にまとめられると、印象がひとつところに集まってゆきます。そうか、束ねられるための詩だったのか。一つの詩と別の詩が、村の小径できちんとつながっています。生きる喜びと痛みを、ふところ深くに抱えた親族や隣人が、生き返ってきて詩集の中を歩き始めているようです。新井さんの視線の先の、なつかしくも心ときめく世界を、読者はうっとりと眺めることができますーー松下育男

前橋と島根、その往還のなかで、いまはなき者たち、土地の声、息づかいに耳を澄ます。たどり着けそうでたどり着けない、とぐろを巻く記憶の道筋。装画=鈴木いづみ、造本=山元伸子

2420円(税込)
A5判変型並製・88頁
ISBN978-4-7837-3786-5
2022年4月刊

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山田裕彦『囁きの小人 1994-2021』

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蠢く蟻の文字


立ち去ろうとするのだが一歩が踏み出せないでいた。身動きできないその理由を思いつけなかった。あらゆる出来事には理由がなかった。
(「静かな日」)

山田裕彦は含羞の人だ。絶滅の波打ち際にむかって、おおごえあげて走り寄るわけでも、黙って背を向けるわけでもない。むしろ、希望や絶望が嚙み砕かれた、不毛の湿原で理由も根拠もなく、ひそかに生きている虫の声、あるいは死後にこそ蘇る、忘れられた小さな声たちの囁きに耳を澄まそうとする。そこに含羞の人が、今日の詩のもつ意味にすら逆らう、吃音という発声の方法があったーー北川透

打ち捨てられ、毀れつつある詩語の廃墟のなかを蟻の文字が蠢いている。貧しさの感覚に耐えながら、宙づりの書記において時代と対峙する19篇。四半世紀ぶりの新詩集。

2750円(税込)
A5判上製・144頁
ISBN978-4-7837-3784-1
2022年4月刊

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松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』

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好評3刷出来!


生きていくために
ただ書いている詩が
あっていいと思う

生きがいなんてない

感じる人が
俯いた先で書ける詩があっていいと思う
(続・初心者のための詩の書き方)


「大切なことはたいてい手元にある。書いているその場所にすべてがある。生きていることのすべてがある。ぐっとこないで生きていられるか。ここにこうして私がいる、そのことの切なさを込めずになんの創作だろう」。定年後、東京、横浜、オンラインではじめた詩の教室。2017~20年に語られた講義の記録。現在進行形。造本=二月空

目次

Ⅰ 詩を書くひとに話しておきたいこと
だらだら うろうろ わくわく/なぜ詩を書くか/少し話し、少しはみ出し、少し伸び上がる/書きたいことを書くってどういうこと?/二人の自分、枕元の詩/詩の基準/詩を書く幅、詩を読む幅/泣かずに書けない/詩の一番の上達法/詩人として生きてゆく/貧富と詩作/頭のいい人はすぐれた詩を書くことができる/わからない詩とどう向き合うか/人と比べない勇気/何が一番恐いだろう/社会を書く

Ⅱ 詩の話をしよう 1
自由詩の自由を楽しもう 茨木のり子の詩/言葉は息をしている 川崎洋の詩/心に分け入る道筋 谷川俊太郎の詩 ぼくはわかっていないんじゃないか 清水哲男の詩/詩人の幸せについて 寺山修司の詩/よいものを見つめてゆく 中原中也の詩

Ⅲ 詩の話をしよう 2
詩は西からやってくる 大野新の詩/直接詩人と間接詩人 山内清の詩/隣で書かれている詩 三橋聡の詩/詩人力がついた 太宰治と上手宰/個別梱包の言葉 井上洋子の詩/意味にこだわらない自由 佐々木安美の詩/気持ちの奥を描く 高橋千尋の絵と言葉/わくわくするような詩 稲川方人と柴田千晶/詩でしか書けないものを書く 松井啓子と阿部恭久/評論のすすめ 粒来哲蔵の詩/どうしても言っておきたいこと 池井昌樹と白井明大/詩とメッセージ 井上陽水と宮尾節子/素敵にガッカリしてみよう 中島みゆきから学ぶもの

Ⅳ 詩につながる考えごと
避けられない寂しさを書く 老人と詩/忘れ去られることの尊さ さくらももこについて/ただここにあるもの/詩は死をどう扱うべきか/人生の音
あとがき

3520円(税込)
四六判並製・432頁
ISBN978-4-7837-3826-8
2022年4月第1刷、8月第3刷

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連東孝子訳『W.S.マーウィン選詩集』

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詩とヤシの木の庭


今のぼくの半分の歳の母がずっと前に取り外した窓の傍にいて
 同じ部屋に友たちがいて ことばがまわりで夢見ている
動物たちの目はぼくに注がれ みんながここにいる
 冬の花々へと向かう途中の
朝のさわやかさの中に 曙光の中に
(「賜物の日」)

「大地と海と草木と空からヒトを通して詩が生まれる現場」(谷川俊太郎)。禅や俳句、ディープエコロジーの思想の影響を受けながら作品ごとに作風を変え、深い思索を詩語に結実させたW.S.マーウィン。ハワイの広大な「庭」を耕しながら、詩作に励んだアメリカの桂冠詩人、初の邦訳選詩集。造本=清岡秀哉

W.S. マーウィン 詩人、翻訳家
1927年ニューヨーク市生まれ。ニュージャージー州ユニオン市で育つ。プリンストン大学在学中に詩人を志す。南欧とロンドンを転々としながら、各地の古典の翻訳詩、詩、詩劇などを発表。52年第1詩集『ヤヌスの面』でエール大学新人賞を受賞、選者W.H.オーデンの高い評価を受ける。以後、詩集毎に新しい視点と詩法を世に問い、詩人としての確かな位置を築いた。60年代、ニューヨークを拠点に、反核、反戦運動に参加。75年以降、マウイに定住し、禅の修行を続ける傍ら、詩作とディープエコロジーの概念に添い荒地に「庭」造りを成功させる。多数の文学賞や顕彰を受ける。2019年3月マウイの自宅で逝去。

連東孝子 Takako Lento(訳者)
福岡県北九州市出身。津田塾大学英文科卒業。九州大学大学院の中途でフルブライト研究員としてアイオワ大学創作科に留学(MFA.)。九州大学修士修了後、渡米。三年間アイオワ大学の中国・東洋学部で専任講師(日本文学と文化の講座担当)。田村隆一”World Without Words””On the Life and Work of a 20th Century Master”、谷川俊太郎” The Art of Being Alone : Poems 1952-2009”” Ordinary People”はじめ現代詩の英訳、W. S. マーウィン、ニッキ・ジョバンニ・ジェームズボールドウィンの邦訳を手がける。W.S.マーウィンとの『蕪村句集』の共訳(Collected Haiku of Yosa Buson)および現代詩の先達(Pioneers of Modern Japanese Poetry)のうち、金子光晴の翻訳に対して日米友好委員会翻訳賞を2度受賞。米国デラウエア州在住。

2640円(税込)
四六判並製・208頁
ISBN978-4-7837-2789-7
2022年4月刊

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季村敏夫 高木彬編『一九二〇年代モダニズム詩集――稲垣足穂と竹中郁その周辺』

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刻まれる光と影


ダダや未来派周辺の青年の挫折をアナキズムやコミュニズム、末尾の児童詩まで拡張し、一九二〇年代の詩の塊りとして位置づけ、二〇年代後半から始まる瀧口修造らのシュルレアリスムとの連関と断絶の研究の一助になればと編集にいそしんだ。(…)詩史に記されることのなかった存在が、こうして一冊に収められた。(「解題」より)

モダニズム詩前夜の混沌たる暗がりの中を、果敢な言語実験で駆けぬける若き詩人たちがいた――海港都市・神戸から出発した稲垣足穂と竹中郁を中心に、新たな視点でまとめたアンソロジー。好評重版!装幀=田中勲
【収録詩人】
受川三九郎、稲垣足穂、猪原一郎、石野重道、近藤正治、田中啓介、平岩混児、高木春夫、遠藤忠剛、九鬼一爾、唯 半児、衣巻省三、野川 隆、冨士原清一、星村銀一郎、橋本健吉、宇留河泰呂、沙良峰夫、藤村青一、小野十三郎、友谷静栄、碧 静江、細田東洋男、竹中 郁、福原 清、山村 順、木水彌三郎、富田 彰、一柳信二、平井 功、黄 瀛、岡田春草、坂本 遼、原理充雄、西村欣二、山田初男、橋本実俊、浅野孟府、市島三千雄、澤 ゆき子、水町百窓、井上増吉、笹井 陶、岡崎龍夫、竹村英郎、浜名与志春、林 喜芳、北村栄太郎、永井 叔、能登秀夫、大正期の児童詩

2200円(税込)
四六判並製・208頁
ISBN978-4-7837-3785-8
2022年4月第1刷 2023年3月第2刷

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『北川透 現代詩論集成5――吉本隆明論 思想詩人の生涯』

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拮抗する詩と批評の深部へ


ここでわたしがやろうとしたことは、これまでの膨大な数の吉本隆明論のほとんどが疎外している、少年時代にさかのぼる最初期の詩篇から、晩年の『記号の森の伝説歌』『言葉からの触手』までの詩の解読を試みることだった。これはわたしが吉本隆明を思想家としての一側面ではなく、彼が思想領域を論理的に扱っている時でも、根本的に思想詩人としての感覚や想像力が働いている、と考えていることに基づいている。評論は吉本にとって、部分であっても、詩は彼の全体であり、その源である。/それにもかかわらず、彼の思想論や文学理論が、今日では批判的な検討を要するとしても、同時に誰の追随も許さない独立した価値をもっていることは確かだ。それでわたしは、自らの非力をかえりみず、「マチウ書試論」や『文学者の戦争責任』、『言語にとって美とはなにか』、『共同幻想論』なども、ひるまず考察の対象にした。―――北川透

吉本隆明は詩人であり、詩を核心に抱いた思想家だ。詩や詩論のみならず、政治、哲学、宗教など、すべての知的冒険に、詩的な発想・想像・跳躍・切断が生き生きと働いている――。戦前・戦中における詩の〈始まり〉から、『固有時との対話』『転位のための十篇』をへて晩年の作品群まで、その生涯の詩を読み解く。六〇年代以降、同時代において吉本の詩と思想に全身で向きあってきた著者が、自身の数多くの吉本論を解体し、全篇を新たなかたちで構想した畢生の書。装幀=間村俊一

5500円(税込)
四六判上製・550頁
ISBN978-4-7837-2375-2
2022年3月刊

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