詩の本の思潮社

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粟津則雄『畏怖について など』

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内的な日記


この志賀評にしても花田評にしてもまことに小林さんらしいのだが、そこには、おのれの判断の独自性を誇示しているようなところはいささかもない。おのれを空しうしてただひたすら対象に見入り、その凝視の純度と強さとが、おのずから対象を照らし出すのである。中途半端な個性など捨て去ることによって、はじめて真の個性が現れ出るのである。(……)それで思い出すのだが、六十年まえのあの夜、小林さんは「おれの批評なんざ、おめえたちのための踏み石みたいなものさ」とも語っていた。あのことばが、改めて心に沁みるのである。(「個性について」)

古今東西の文学、美術、音楽その他、あらゆる領域に鋭利繊細な批評の営為を推し進めてきた著者が、日々の生活から汲みあげた主題を、自身のもっとも奥深いものと結びつけて語る。4年にわたり書き継がれた、生の示唆に満ちた50篇。本質を問うてやまない精神の運動が心音を響かせる、珠玉の随想集。装幀=菊地信義

本体2,200円+税
四六判上製・216頁
ISBN978-4-7837-1677-8
2012年2月刊

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鈴木正樹『トーチカで歌う』

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過去の自分と未来で出会う


ひょっとして 僕は
幼かった時代を 歩いているのではないか
道ばたで 外国兵に
垢じみた手を 差し出したことがある
(「道ばたで」)


人は自分の時間を歩いている。そこでは国境も無く、過去も未来も混然と交差したり、よじれたり――過去の自分が未来から歩いてきたりする。

著者の言葉

 言葉に輪郭のある意味を載せることで、現代詩が忘れかけている角度から、命を見詰めた。抒情とは淡く、甘い感傷などではない。血液や精液や排泄物のような臭いに充ちている。平和ボケした僕らの周りには爆弾テロや人身売買や地雷が漂い、何度も書き直される国境。それに気づかない生活。人間にまとわりつく時間が一直線になど流れるはずもない。命が変色し霧散する一瞬を固定し、何時でも再生できるように抒情で捉え、詩集とした。

本体2,500円+税
A5判上製・154頁
ISBN978-4-7837-3284-6
2012年2月刊

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伊達風人『風の詩音』

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詩的存在証明


わたしから一番遠いあなたへ
知り尽くしても尽くせない獣石の巡りを
ならば、うたおうとする生き物のちからを
せかいでは、なんといいますか
(「わたしから一番遠いあなたへ」)


「先端的な現代詩の書法を繰り出しつつ、いわば身体全体、いや身体をかたちづくる細胞のひとつひとつに詩の言葉がみなぎるようなこの充実。想像力のスケールの大きさがなによりも魅力だ。私はそれを愛する」(野村喜和夫)。「自らの内面と対象との純粋で直接的な交渉において立ち昇ってくる言葉たちをどこまでも記していくということ。それによってのみ、伊達は対象と直接触れ合うことができた」(広田修)。詩人の誕生という至高の瞬間を生ききり、2011年33歳で夭逝した伊達風人の作品を集成。

本体2,400円+税
A5判並製・144頁
ISBN978-4-7837-3283-9
2012年2月刊