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白井知子『地に宿る』

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ハイデ メンデ・ギヨナ


あの世も
この世も
さらなる世も
たがいに入りくみ
どこもかも岐れ道
(「アジャンター未完の石窟」)

「日本を離れ 外に向って/地の人の群れ ささやき 暮しの声よ/民族の影 うごめき続く血の歴史よ/止むことのない白井知子の促し/親和力を秘めながら 駅に佇つ」(長谷川龍生)。私は誰の娘であろうか――インドや中央アジアからトルコ、東欧やドイツと世界を歩き、少数民族の声に耳を傾ける。いのちの連鎖に詩の血脈をひろげ、月の光りにはこばれる祈りと交感の14篇。

著者の言葉

今回の詩集カバー母子像を制作した彫刻家、故白井保春はわたしの義父にあたる。東京、早宮のアトリエでは、こんなことがあった。わたしの伯父が胸像を依頼し、出来上がってきた二分の一のプロトタイプに親族みな息をのんだ。伯父の亡くなった父親に生き写しだったのだ。「血族が引きずりだされた」という直感がはしった。顔といわず、肉体のどの部位も、現在ここに生きている人のなかには血族たちが棲みついていて、そのひとりになりすましている――。初めての子を身ごもっていたわたしの聴覚は内側へ、さらに内なる処へと浸透していった。
後に1983年、アメリカ、カリフォルニア州、サンノゼ市に家族で一年滞在する機会をえた。移民最前線である人たちと出会いがあり、とりわけ、ヴェトナム難民の同性たちからは、子どもたちの将来のためなら命がけで海をわたる決心がついた、枯葉剤の猛威を知ってほしいなど、いたましい経緯を聞くことになった。彼らの存在により社会的視野の重さに直面し、できることなら海外の現地を歩きたいと思うようになっていった。
硬い記述の歴史をほぐし、記憶の痕跡に灯りをともすように日々に投影し、生物的観点を含めた歴史の縦軸、そして、現代という同時代を共に生きる人々の気息の横軸、交錯する昏迷の霧のなかで、自分の言葉を探し、始動させていきたい。

本体2,400円+税
A5判上製・102頁
ISBN978-4-7837-3280-8
2011年11月刊

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