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岡本勝人『古都巡礼のカルテット』

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寺院が奏でるポリフォニー


白い道をよぎって 意識よ 休息せよ
なぜか 東西南北
きみたち 無意識のゆくにまかせる
渇ーっ!という声が 響きわたる
(「第一楽章 昼も夜もない星に歴史はやってくる」)


「男は歩く。大和の古寺から古寺へ。仏陀の思惟のほうへ。女も歩く。ローマの四辻、噴水のほとりを。詩人も歩いた。パリを駆け抜け、砂漠を過ぎて。人間のざわめき、風の音、海の音。おん。ばさらくしゃ。あらんじゃ。うん。そわか。男の口から洩れてきた」(高橋英夫)。奈良や京都をめぐる歩行と思考を、西洋芸術との対置を織りまぜつつ、軽妙な旋律へと昇華させる。著者長年のフィールドワークが結実した、渾身の五楽章。装画=森田和彦


【著者の言葉】
ながいあいだ、ヨーロッパの街と奈良の寺々を歩いてきたが、思わぬことでこのふたつが対位法のようにひとつの長篇詩となった。昨年は、期せずして奈良遷都1300年の年であったが、その中心は、仏教伝来である。日本人の言葉の運びはとてもゆっくりとしているので、ヨーロッパの詩人が書くような詩とはならないが、色彩が織りなす姿は、あたかも音楽を聞くように言葉の流れる詩の世界となっている。
西洋と東洋の感性を同一の場所に、あたかも共時的にとりこむ手法は、アナロジーという概念によってのみ可能だ。宗教も文化も都市も街もひとの風景もそれぞれちがうが、アナロジーの幻影態をプリズムとして通過させてみると、まるで親子や兄弟のように意味連関の相似としてみえてくるから不思議である。
この詩集は、古都奈良と東アジアへの志向性をもった長篇詩だ。人が生きることは、ながいスパーンでみれば、同一性と差異であったり、同一性と反復であったりするが、手持ちの言語を入れかえとっかえして詩作するのではなく、古典を読みそこから人生の街道を詩によって書く難路をもって考えていきたいと思う。

本体2,400円+税
A5判上製・114頁
ISBN978-4-7837-3245-7
2011年5月刊

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