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定道明『木橋の穴』

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小土を掛けるように


雁木を穴熊が通る。穴熊は傍若無人であるから、せわしなくごそごそとやって来る。いくら何でも音で分かる。蝮はただちに塒を巻く。これは、後退、防禦のためではない。塒を解く時のバネというか、反動を利用して一気に敵に挑みかかるための構えである。そのために、塒はより固く、堆く積み上げられた。体鱗の幽かに擦れる音がしている。
(「蝮」)


「前著『中野重治近景』で、みずからの筆致を、「じゃが芋に小土を掛けるように」と語った著者の、そのまま北陸の田舎の地にあって、移りゆく世相を土と共に奏でた異色の散文詩集。葉篇小説集といってもよいが、フォークロアの視点をも存分ににじませて、まことペーソス溢れるユニークな世界を構築した。失われつつある大切なものに、どこか触れている気分に誘われる、とても小粋な一冊だ」(倉橋健一)。
中野重治研究で知られる著者が絶妙の筆致で昇華する、生の風景、21篇。装幀=髙林昭太

2640円(税込)
A5判変型上製・98頁
ISBN978-4-7837-4516-7
2023年3月刊

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