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『北川透 現代詩論集成4――三島由紀夫と太宰治の戦場』

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抗いの方法、無数の〈仮面〉


表現の一挙手一投足が、監視と検閲の目にさらされる。そうしたらこの強力な抑圧の力を逆用するしかないだろう。ことばが文学の固有の可能性を生きるために、敵を欺き、自らをも欺く戦略的な方法が必要だった。戦中下の詩人たちは、それを知らなかった。彼らが、いかに笑いもウソ泣きも忘れた、無為無策の正直一辺倒で、真面目で立派な人格者(おバカさん)だったかということは、愛国詩や戦争詩が証明している。/その無惨を繰り返さないために、天皇制から逃げないことが、同時に、その一木一草も被い尽す網の目に、絡め捕らわれないでいる方法を発明するほかない。《告白という〈偽りの世界〉》や、複数の〈仮面〉の犯罪や、盗作やパロディーや、虚の語り手や道化の演戯や、思想としてのレトリックを自在にし、あらゆる手練手管を使って、巨大な見えないシステムと戦わなければならない。そのことに詩と小説に違いがあるわけではない。―――北川透

著者が関心を持ち続けてきた、非詩的領域にある作家のなかの詩の行方を問う異色の一巻。三島由紀夫における天皇制と共同体、太宰治における戦争下の文学の在り方など、喫緊の問題に接近する。三島の厖大な少年詩を読み解き宿命的な詩的資質を探る巻頭論考をはじめ、死と共同体の関係を全面的に論じた『豊饒の海』四部作をめぐる三島論、〈大東亜戦争〉下の文学的な戦いの限界を極めた可能性を、『散華』『右大臣実朝』などの分析を通じて追究する太宰論を収録。月報=北川透×佐藤幹夫、装幀=間村俊一

本体5000円+税
四六判上製・558頁
ISBN978-4-7837-2374-5
2021年3月刊

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