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斎藤恵子『海と夜祭』

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累累と不在のものたち


家家の下には
さらさら川がながれ
ふるい耳わのようなものをあらっている
(「夏の家」より)


「ひとは太古、ほかの凶暴な動物に襲われないよう、夜間は起き、昼間樹木の上で眠ったという。何か不穏な空気を感じる夜、他の動物にさとられないように、静かにしていなければならない。泣く子は殺されなかったか。太古からの残酷な気配を無意識のうちに感じて、今も泣くのか」(「子どもの悪夢――あとがきに代えて」)。生と死、夢と現実、俗と聖。見えるもの、見えないもの。そのあわいに導かれて――。装画=福山知佐子


【著者の言葉】


憶えておこうとしていても夢は醒めれば忘れてしまう。どうして忘れてしまうのだろうか。夢に出てきて欲しいひとは出てこなくて、見知らぬひとばかりが出てきたりする。その見知らぬひとをわたしは、ただ忘れているだけかもしれない。情念を持ちわたしの中で生きているから現れるのだ。ひとは時代の悲しみに耐えて永遠に生きなければならないのだと。「船日」や「小舟の女」が目の前に現れる。忘れてはならないのにと仄めかすように。生は一回性だが、ひとは遠い過去をなぞって生きていることもあるかもしれない。前詩集は、無月のように、あっても見えないものを書こうとした。本詩集では、うつつとも夢ともしれぬ、生と死のとろとろと溶け合い漂う世界をおずおず書いた。


本体2,200円+税
A5判上製・96頁
ISBN978-4-7837-3254-9
2011年7月刊