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編集部から

清岳こう『マグニチュード9・0』新刊インタビュー

2011年09月15日

3月11日に仙台の勤務校で被災してから一ヶ月間の詩篇を収めた詩集、『マグニチュード9・0』が刊行になりました。清岳さんは現在、ボランティアスクール「ことばの移動教室」など、精力的な取り組みをされています。書面にて取り組みを通じた被災地のいまを伺いました。

ことばの移動教室


震災後の風景を「敗戦直後のようだ」と言う人たちがいます。最初、その言葉の意味がよく分かりませんでしたが、六ヶ月経った現在、深く納得するものがあります。
ここ二ケ月ほど出かけた時、今まで仙台で見たことのなかった風景に出くわすことがあります。突然、どなり声が起こりいつまでもその声が止みません。「品物が少ない。」「空調が効いていない。」「通行の邪魔だ。」中には、相手の車を激しくたたきだす人まで。皆がいらいらしている、疲れているのです。地震直後は「心をひとつに」「私たちは負けない」とスローガンがはためき、高揚していた気分がほころび始めたのでしょう。

「ことばの移動教室」のボランティアを立ち上げたのは桜の花が終わるころでした。「心の支援が欲しい。一回きりではなく、子ども達と長く付きあってくれるような支援を。」と小学校の校長に言われたのがきっかけでした。
小、中、高校と要請があれば出かけて行き、「詩」を書いてもらおうというボランティアスクールです。準備に一ヶ月。共に活動してくれる大学生達と心理療法士の話を聞いたりして準備を整えました。皆の一致した意見は心に深い傷を負った子どもに現実を見つめよう、書こう、というのは過酷だ。時間をかけて自然に、と。
ところが、あるお母さんのせっぱつまった声が私達のお尻を叩きました。地震以来、小学六年生の女の子が口をきかない、何を言っても「ふん」「けっ」だけ、何とかしてほしい、すぐ書かせてと。私の呼びかけに応えて、詩を真っ先に書いてくれたのは小学二年生の弟でした。姉の六年生は、相変わらず「ふん」「けっ」の日々。その女の子が何週間も経って、一篇の詩を渡してくれました。タイトルは「地震にリベンジ」でした。他に友達を津波で亡くしたり、石油基地の火災で父親が失業した高校生たちも噴き出すような思いを詩に書き始めています。この児童・生徒の詩集を出したいと資金集めも含め、東奔西走しています。


清岳 こう(きよたけ こう)宮城県仙台市在住。
詩集に『失せ物いでず』『千の腕をひろげて』『凸凹をなぞりながら』
『浮気町・車輌進入禁止』『天南星の食卓から』(第十回富田砕花賞)
『創業天明元年ゆきやなぎ』『白鷺になれるかも知れない』『ウェディングベルを鳴らせ』
『風ふけば風』など。平成二十一年宮城県芸術選奨受賞。「歴程」同人。